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日本銀行発券局員による記念貨窃取の背景

NHKで報道があり、日本銀行もホームページでプレスリリースをしていますが、日本銀行の本店で、発券局の職員が記念貨155万円(10万円金貨15枚、5万円金貨1枚)を窃取したとのことです。個人的な感想として新人研修が発券局で銀行券・貨幣の鑑査をした身として、とても恥ずかしい。不心得者が為に、日本銀行職員約4,600人が肩身が狭い思いをすることになりますし、企業へのヒアリング調査や統計調査(短観や企業物価指数)などは日本銀行とは直接の取引関係のない企業にボランティアでお願いしているので、調査環境の悪化も懸念されます。

 

(NHKへのリンク)

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20180418/k10011408541000.html

 

(日本銀行のプレスリリース)

http://www.boj.or.jp/announcements/release_2018/rel180418c.pdf

 

日本銀行のプレスリリースをみると、どうやら鑑査に携わった職員1名が記念貨を袋詰めする際に窃取したようです。鑑査とは、銀行券・貨幣の偽造の有無、枚数を確かめ、汚れたお札は裁断処分、綺麗なお札は再度、市中に流すようにする部署です。このうち貨幣については、市中金融機関から日本銀行に引き上げられた段階で金額を確かめ、問題がなければ貨幣を鋳造している造幣局に送り、鋳つぶして再利用します。

 

少額貨幣であれば、秤量といって、枚数の確認ではなく重さでの確認で済ませつつ、適宜の割合でランダムサンプリング(言わば、抜き打ち検査)をして、不正が行われないようチェックしています。

 

一方、10万円記念貨に代表されるような高額の記念貨については、1枚1枚、職員が目で(場合によってはルーペを使って)真偽を確かめています。というのも、昭和天皇陛下の御在位60年を記念して発行された10万円金貨は、加工が容易な金を使いながら、金属としては10万円の価値がなかったため(金属としての原価は約5万円)、本物を上手く型取りできれば、本物と同じ材質の純金を使ってもバレないというたちの悪い代物なのです。しかも、当初の売れ行きが良かったために、後にミスター円と呼ばれる榊原英資氏(当時、国庫課長)が追加発行をしてしまいました。

 

偽物が容易に作れる高額記念貨の増発ということで、珍しく、日本銀行が大蔵省(当時)に抗議をしたそうです。

 

そうした事情から、高額かつ偽物が多いということで、10万円金貨などは経験を積んだ職員のみが鑑査をしています。

 

発券局は現物(日本銀行内における現金のこと)を扱っているため、セキュリティは厳しいですし、常に2人が相互監視をして、防犯カメラで録画されています。

 

2004年、神戸支店で改札(お札のデザインが変わること)の直後に、ゾロ目だったり並び数字だったりするレアな記番号(お札に記してある英数字)のお札を同じ金額のお札とすり替えて、それが、現金を受け取った市中金融機関の報告により発覚したという不祥事がありました。このときは、金額が等価交換されていたため、刑事訴訟にはならなかったと聞いています。

 

その際は、綱紀粛正がなされ、神戸支店長が更迭、変わってコンプライアンス・人事に強い方が急遽、神戸支店長になり、様々な人事に影響がありました。

 

そうした経験から、今回の件は絶対にあってはならないことが起きたと思っています。日本銀行の信任うんぬん言う前に、とにかく、恥ずかしい。

 

日銀のプレスリリースをみると、年度末をまたいで窃取があったようで、発覚は年度明けです。では、年度末の棚卸はしていなかったのか。窃取した職員の相方は何をしていたのか。まだまだ、疑問が残ります。

 

今回、監事による監査によって発覚したとのことですが、おそらく監事はババを引いたと思っていると思います。日本銀行において監事は名誉職のようなもので、その監査は儀式のようなものです。それだけ何事も起きない、それだけ職員の不祥事がない。

 

それが、またしても、発券局。発券局の位置づけは日本銀行内においては、残念ながら格下です。頭の良い企画局が一番偉くて発券局などの現場は格下。そうした行風の下で、現物があるので誘惑はどこの部署よりも大きい。そんな屈折した状況が犯罪を後押しするような精神状態に追いやったのかもしれません。

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コメント: 1
  • #1

    鈴木卓実 (水曜日, 18 4月 2018 21:32)

    このタイミングで、日本銀行開業の地うんぬんの動画をFacebookで投稿している日本銀行のセンスはどうかしていると思う。動画を流すなら、発券局長や総裁の謝罪。

    大人げないとは分かっていますが、
    「OBとして苦言を呈すが、発券局員による記念貨の窃取というあれだけの不祥事を公表した当日に、呑気に広報をするセンスは信じがたい。つくづく、嘆かわしいし、恥ずかしい。」
    と日本銀行の投稿にコメントしました。危機感がないのか、国民を馬鹿にしているのか…