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サマータイムに反対する諸々の理由

ここに来て、にわかにオリンピックの酷暑対策のために、サマータイムが導入されるのではないかと話題になっています。2020年東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長(元首相・81歳)と武藤敏郎事務総長(元財務省事務次官・元日本銀行副総裁・75歳)が7月27日に、安倍首相と会談しサマータイム制度導入を申し入れたのが、ことの発端です。森会長はかねてからのサマータイム導入論者でしたが、武藤事務総長はここに来て急展開。ただ、この段階では、てっきり責任を取りたくない二人のポーズであって、お二人からすれば、「政治が決断できなかった」、安倍首相からすれば、「野党と一部産業界の厳しい抵抗があった」という形の出来レースで、第三者に責任を押し付けて、幕引きを図るものと思っていました。

 

それが、8月6日に「酷暑対策でサマータイム導入へ 秋の臨時国会で議員立法 31、32年限定」と産経ニュースなどで報じられると、様々なメディアやIT関係者、医師などによる記事が一気に増加しました。

 

サマータイムの健康面を巡る問題については、精神科医・早稲田大学准教授の西多先生による「サマータイムが愚策である10の理由」が参考になります。1. 不眠になる、2. 自殺が増加する、3. サマータイムに慣れるのに意外に時間がかかる、4. 寝室環境が劣化する、5. 交通事故が増加する、6. 心身の病気が増える、7. 不登校が増える、8. 高齢者の日中の活動が制限される、9. 睡眠障害・精神障害がさらに悪化する、10. 省エネ効果は意外に低い、という点を簡潔に説明されています。西多先生は、精神科医でも特に睡眠に関する専門家で、私自身、お世話になったことがあります。エビデンスを大事にされる先生で、ハーバード大学やスタンフォード大学でも研究をされていた方が、日本睡眠学会の「サマータイム-健康に関する影響-」という研究報告を基に書いているので、かなり確度の高い情報だと思います。

 

私自身、睡眠健康指導士の資格を持っており、実体験を踏まえると、既日リズムの変化による心身の影響は強いものですので、上記10点は大いにあり得ると考えています。さらに言えば、比較実験が難しいので研究がされていないのかもしれませんが、肥満の増加やガンの増加も考えられます。

 

労働問題としてのサマータイム制度反対の立場としては、労働時間延長の危険などを挙げた日本労働弁護団の資料が2008年に公表されています。実感として、2時間早出しても2時間早くは帰れないかもしれません。終電はまだ先ですし…

 

サマータイムに対応するためには、様々なプログラムの書き換えが必要で、IT業界からは個人レベルのブログを含め、無数の情報発信があります。元号改正や消費税率変更が見えている中で、ただでさえ、長時間労働の方が時間に関するプログラム変更までできるとは到底思えません。夏時間に変更した後、秋に元の時間に戻さねばならず、それもずっと同じではなく、2年という期限があるので、また、サマータイムがなかった状態に戻さなければなりません。「サマータイム導入が上手くいったら、レガシー(遺産)として恒久化する」という案も浮上しているようですが、その場合は、またプログラムの手直しが発生します。

 

プログラム修正以前の問題で、作業対象の洗い出しからして難航すると思います。スマホであれば一律にアップロードできるかもしれませんが、金融機関のネットワークや病院のシステム、原子力発電所、自衛隊や政府関係のシステムなどにあるクローズドのシステムを全て確認しなければなりませんし、システム間で時間表記がズレた場合、他のシステムとの連携に不具合が生じる可能性があります。

 

日本はGHQの指導で戦後の一時期、サマータイムを導入しましたが、サンフランシスコ講和条約を結んだ後、次の夏が来る前に撤廃しました(サマータイムに係る法律も廃止)。サマータイムを実施した回数はわずか3回。世論調査でも不満の声が高かったとの記録があり、日本人自身による政策の自由度を得た途端にサマータイムを廃止しました。また、近年では、ロシアなど複数の国で、健康上の理由などから時間移行制を廃止しています。あのアルコール中毒患者が多く、健康への関心が低いロシア人ですら、健康に問題があると認めた制度ということは認識した方が良いと思います。

 

環境省と経済産業省はサマータイム賛成派のようで、かつて検討資料サマータイムパンフレットを作成・公表しています。小池都知事は元環境相で、安倍首相は経済産業省が大好きという点が不安です。本当に導入されるのでしょうか?

 

そもそも、IOC(国際オリンピック委員会)が最終的な大会スケジュールを承認するので、IOCの大スポンサーである欧米のテレビ放送時間を無視したサマータイム導入による時間変更は認められない可能性もあります。既に大会スケジュールの大部分は承認されており、IOCも日本時間はGMT(国際標準時)+9という認識の下で承認したはずです。であれば、日本がサマータイムを導入しても、GMTベースでのスケジュール変更を許すのか、疑問です。

安倍首相は経済にも科学にもシステムにも人権にも歴史にも疎いので、このままだと、マズイことになりそうな気がします…